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従業員や退職者による情報持ち出し対策 – 法規制、検知・立証方法

先日退職した元従業員が、転職先に当社の秘密情報を持ち出した可能性があります。どのように責任を追及したらよいでしょうか。

秘密情報を持ち出した可能性がある元従業員は、「営業秘密」に関する不正行為などを規制している不正競争防止法や、個人情報保護法上の責任を負う可能性があります。

転職元の企業がこの元従業員の情報持ち出しを立証するためには、日頃からログを管理し、それを分析・活用することで情報を持ち出した証拠を揃えることが有効です。また、 セキュリティ機能を利用した対策を講じることは、従業員の不審な挙動の即時検知に役立ちます。

近年の秘密情報の持ち出し(内部不正)事例

内部者である従業員による、企業が保有する営業秘密や個人情報といった秘密情報の不正な持ち出し(以下「秘密情報の持ち出し」といいます)は、かねてから存在していました。なかには、秘密情報の持ち出しが疑われるものの対応が難しく、秘密情報の持ち出しを行った者に対する適切な責任追及を実行できないままとなった事案も相当数あったと思われます。

昨今は特に、従業員の転職に伴う秘密情報の持ち出し事案が注目を集めています。

  • 在日ロシア通商代表部の外交官に唆されて機密情報を不正に取得した疑いで、ソフトバンク株式会社の元従業員が逮捕された(2020年2月)。その後、元従業員に懲役2年(執行猶予4年)、罰金80万円の判決(2020年7月)。
  • 高速通信規格「5G」に関するソフトバンク株式会社の技術情報が不正に持ち出されたとして、元従業員とその転職先の楽天モバイル株式会社を提訴。退職時に持ち出した営業秘密の利用停止および廃棄等、ならびに約1,000億円の損害賠償請求権の一部として10億円の支払い等を求めている(2021年5月。また、この事件の刑事裁判において、元従業員に対して懲役2年(執行猶予4年)、罰金100万円の判決(2022年12月)。
  • はま寿司の親会社である株式会社ゼンショーホールディングス出身のカッパ・クリエイト株式会社 前社長が、株式会社ゼンショーホールディングスの元同僚から商品の原価や仕入れ先情報などに関するデータを退職後に受け取っていたとして、前社長とカッパ・クリエイト株式会社の従業員、法人としての同社を提訴(令和5年2月)。また、この事件の刑事裁判において、前社長に懲役3年(執行猶予4年)、罰金200万円の判決(2023年5月)。
出所:経済産業省知的財産政策室「秘密情報は大切な財産です」2頁をもとに編集部加筆

2023年9月には、双日株式会社の元従業員が転職元である兼松株式会社の営業秘密を不正に持ち出したとして不正競争防止法違反により逮捕されたとの報道がありました 1。また同月、転職元の営業先に関する名刺データを転職先に提供した会社員が、個人情報保護法違反により逮捕された事案 2 も報道されています。

独立行政法人情報処理推進機構(以下「IPA」といいます)が公表している「情報セキュリティ10大脅威」2023年度版 3 では「内部不正による情報漏えい」が「組織」向け脅威の4位にランクインしています 4。

本記事では、内部者(特に退職者)による秘密情報の持ち出しを取り締まる法律について触れたうえで、ログや挙動検知システムといったセキュリティ機能を活用した秘密情報の持ち出し対策のポイントを紹介します。

関係する法規制

不正競争防止法上の営業秘密にあたる場合

規制の概要

秘密情報の持ち出しに対しては、これまで不正競争防止法上の「営業秘密」5 に関する不正行為に対する規制 6 の適用を検討することが多かったように思います。たとえば、従業員が転職するにあたり、転職元の営業秘密を不正な手段で取得して使用・開示する行為や、転職元から正当に示された営業秘密を、不正の利益を得る目的や転職元に損害を加える目的で使用・開示する行為などが想定されます。

不正競争防止法は、営業秘密に関する一定の不正行為について、10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金(またはその両方)を科すこととしています 7。

また、転職する従業員による、営業秘密に関する一定の不正行為に対して、転職元は、差止請求 8、損害賠償請求 9 などの民事上の対抗措置をとることが可能です。

営業秘密の3要件

不正競争防止法上の保護の対象となる「営業秘密」は、以下の3要件をすべて満たす必要があります 10。

  1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. 事業などに有用であること(有用性)
  3. 公然と知られていないこと(非公知性)

しかしながら、裁判所は、この3要件のうち、特に①秘密管理性を厳格に認定する傾向にあり、①秘密管理性を満たさないことを理由として従業員により持ち出された秘密情報が「営業秘密」に該当しないとされたケースが多数存在します。
電子情報の秘密管理性が認められる場合として「営業秘密管理指針」11 は以下のような例を示しており、実務運用上参考になります。

  • 記録媒体へのマル秘表示の貼付
  • 電子ファイル名・フォルダ名へのマル秘の付記
  • 営業秘密たる電子ファイルを開いた場合に端末画面上にマル秘である旨が表示されるように、当該電子ファイルの電子データ上にマル秘を付記(ドキュメントファイルのヘッダーにマル秘を付記等)
  • 営業秘密たる電子ファイルそのもの又は当該電子ファイルを含むフォルダの閲覧に要するパスワードの設定
  • 記録媒体そのものに表示を付すことができない場合には、記録媒体を保管するケース(CDケース等)や箱(部品等の収納ダンボール箱)に、マル秘表示の貼付

個人情報保護法上の個人情報データベース提供罪にあたる場合

規制の概要

2014年に発覚したいわゆるベネッセ事件(株式会社ベネッセコーポレーションの委託先の従業員が名簿業者に同社の会員情報を提供した個人情報漏えい事件)を受け、不正な利益を得る目的で個人情報を漏えいした者に対しては、犯罪抑止の観点から、直接の刑事罰を科すことが必要と考えられるようになり、2017年5月に施行された改正個人情報保護法によって個人情報データベース提供罪が創設されました。

個人情報保護法上、個人情報データベース提供罪については、以下の場合に、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処することとされています 12。

  • 誰が
    個人情報取扱事業者もしくはその従業員またはこれらであった者が
  • 何を
    業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部または一部を複製したもの、または加工したものを含みます)を
  • どうしたとき
    自身もしくは第三者の不正な利益を図る目的で提供したとき、または盗用したとき

また、その従業員が所属する法人も処罰され(両罰規定)、1億円以下の罰金が科されるとされています 13。

個人情報データベース提供罪の要件

従業員が所属企業から持ち出した情報に不正競争防止法上の「営業秘密」が含まれない場合でも、その従業員が業務に関して取り扱った「個人情報データベース等」14(を構成する個人情報)が持ち出した情報に含まれれば、個人情報データベース提供罪の構成要件を満たすことになります。

今後の動向

転職に伴って従業員が秘密情報を持ち出す際、その秘密情報には個人情報が含まれている場合が多いと考えられます(たとえば従業員が持ち出す秘密情報に転職元の顧客名簿が含まれている場合など)。また、不正競争防止法上の「営業秘密」に関する不正行為よりも、個人情報データベース提供罪のほうが構成要件を満たすことが容易な秘密情報の持ち出し事例が多いと思われます。そのため、今後は個人情報データベース提供罪に該当することを理由とした摘発事例が増加すると予想されます。

秘密情報の持ち出しの責任追及が相次ぐ理由

昨今、秘密情報の持ち出しに関する責任追及が相次いでいる理由の1つとして、持ち出しの対象となる秘密情報のデジタル化と、それに伴うセキュリティ機能を利用した対策(以下、「セキュリティ機能利用対策」といいます)の普及があると筆者は考えます。

これまでは、秘密情報の持ち出しに関する責任を追及する際のハードルの1つとして、情報を持ち出したことの証拠を十分に揃えることが困難なところがあったと思われます。たとえば、従業員が紙の顧客名簿の写真を撮ったり、その名簿を密かに一旦社外に持ち出してコピーを取ったりした場合、秘密情報の「持ち出し」を立証することは容易ではありません。ところが、昨今の秘密情報の多くは電子データとして保存されています。電子データを持ち出すためには、ファイルサーバにアクセスして、電子データをコピーして、外部に送信する必要があります。その過程の各行為において、ログが生成されます。

このログを活用したり、セキュリティ機能利用対策を講じたりすることは、内部者による秘密情報の持ち出しの立証に役立ちます。以下、詳しく説明していきます。

秘密情報の持ち出し対策

ログを活用した内部不正の立証

ログがあれば、どの従業員がいつ、どこから、どこへ、どれだけの量のファイルを持ち出したかが明らかになります。

図1は、ネットワークに関するセキュリティ機器であるUTM(Unified Threat Management)15 に保存されるトラフィックログの一例です。このトラフィックログにより、いつ(「日付/時刻」欄)、どこから(「送信元」欄)、外部のどこへ(「宛先」欄)、どれだけのパケット量(「送信バイト」欄)が送信されたのかがわかります。

【図1】UTMに保存されるトラフィックログの一例
【図1】UTMに保存されるトラフィックログの一例

このようにログを有効活用することは、従業員などの内部者による秘密情報の持ち出し事案において有効な対策となります。また、外部からのサイバー攻撃の早期検知にも役立ちます。

セキュリティ機能利用対策による不審な挙動の即時検知

セキュリティ機能利用対策の普及は、内部者による秘密情報の持ち出しとの関係で、もう1つ大きく貢献している点があります。それは、秘密情報の持ち出し時に、不審な挙動(データへのアクセス・コピー、データの外部送信など)がなされた際に、即時に情報システム管理者に通知が届くという点です。

かつては従業員が転職したあとに秘密情報の持ち出しが発覚する事案が多かったといえます。転職後に秘密情報の持ち出しが発覚した場合、転職元企業は秘密情報の持ち出しが疑われる元従業員に事情聴取することが難しく、その元従業員への民事および(または)刑事での責任追及が困難でした。

ところが、従業員による秘密情報の持ち出しの挙動をリアルタイムで検知できた場合には、秘密情報の持ち出しが疑われる従業員と転職元との間の雇用契約は存続しているため、転職元は業務命令によって従業員の事情聴取を実施しやすく、その従業員への民事および(または)刑事での責任追及が容易になります。また、懲戒解雇による対応(懲戒解雇事由があることを理由とした退職金の全部または一部を不支給とする措置など)も可能となります。


  • 日経電子版「双日元社員の営業秘密取得 土日の不審アクセスで発覚」(2023年9月29日、2023年12月7日最終確認)↩︎
  • 日経電子版「名刺データ、管理にリスク 個人情報提供疑いで初逮捕」(2023年9月15日、2023年12月7日最終確認)↩︎
  • 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2023」(2023年1月25日、2023年8月24日最終更新)↩︎
  • なお、IPA「情報セキュリティ10大脅威」では、2015年以降、「内部不正による情報漏えい」が「組織」向け脅威のトップ10に毎年ランクインしています。↩︎
  • 不正競争防止法2条6項 ↩︎
  • 不正競争防止法2条1項4号から10号まで ↩︎
  • 不正競争防止法21条 ↩︎
  • 不正競争防止法3条 ↩︎
  • 不正競争防止法4条 ↩︎
  • 不正競争防止法2条6項 ↩︎
  • 経済産業省「営業秘密管理指針」(平成15年1月30日、最終更新平成31年1月23日)11頁 ↩︎
  • 現行個人情報保護法179条 ↩︎
  • 現行個人情報保護法184条1項1号 ↩︎
  • 「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報をコンピュータを用いて検索できるように体系的に構成したもの、又はコンピュータを用いていない場合であっても、五十音順に索引を付して並べられた顧客カード等、個人情報を一定の規則に従って整理することにより特定の個人情報を容易に検索することができるよう体系的に構成したものであって、目次、索引、符号等により一般的に容易に検索可能な状態に置かれているものをいう(現行個人情報保護法16条1項)。↩︎
  • UNITIS「UTM(統合脅威管理)とは?機能や特徴、メリットをわかりやすく解説」(2023年7月19日)↩︎

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山岡 裕明

山岡 裕明

八雲法律事務所 弁護士

情報処理安全確保支援士。University of California, Berkeley, School of Information修了(Master of Information and Cybersecurity(修士))。内閣サイバーセキュリティセンター タスクフォース 構成員(2019~2020年、2021~2022年)。サイバーセキュリティ協議会運営委員会「サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンス検討会」検討委員(2022年~)。

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