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日清食品の生成AI活用事例 – 年250時間/人の効率化例やリスクの整理方法を講演

ChatGPTをはじめとした生成AIの活用に注目が集まる一方で、企業で利用するうえでは課題や懸念点があることも事実です。そんななか、日清食品グループは、各種リスクへの対策を施したうえで、2023年4月からいち早く生成AIを導入し、業務の効率化に役立てています。

本記事では、2023年10月26日に開催されたイベント「Gen AI EXPO 〜ChatGPT・生成AIはビジネスをどう変えるのか〜」で、日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO グループ情報責任者 成田 敏博氏が行った講演「日清食品グループが推進する企業における生成AI活用法」の模様をレポート。導入前に検討したリスクや、導入後に実施した全社を巻き込んだ利用加速の取組み、今後検討している施策などを紹介します。

この記事のポイント


  • 企業における生成AIの活用がはらむリスクを検討したうえで、セキュリティ面、コンプライアンス面の大きく2点のリスクに整理して対策を検討した
  • 専用環境を構築・展開して終わりではなく、全社を巻き込んだ利用加速、システムの高度化を目指した施策を継続。全社員に向けたプロンプトエンジニアリング研修などを実施した
  • 営業部門でNISSIN AI-chatを活用できる業務の絞り込みと汎用的に使えるプロンプト(質問文)テンプレートの作成プロジェクトを進めた結果、営業担当者1人あたり250時間/年の作業時間の削減を見込んでいる。同様のプロジェクトを他部門でも展開予定

企業の生成AI活用リスクは「セキュリティ」と「コンプライアンス」に集約される

日清食品グループでは「NISSIN AI-chat powered by GPT-4」という独自のシステム環境(以下、「NISSIN AI-chat」といいます)を構築し、全社約4,800人のユーザー(社員)が日々利用しています。このシステムが構築されたのは、2023年の入社式で同社CEOの安藤 宏基氏が新入社員に対して「ChatGPTのような新しいテクノロジーを賢く駆使することで、短期間に多くの学びを得ていって欲しい」というメッセージを投げかけたことがきっかけでした。入社式に役員として参加していた成田氏は、生成AIの活用に向けて即座に動き出したといいます。

「私は日清食品グループのデジタルの領域を担当していることから、この日のうちにプロジェクトチームを組成し、ChatGPTのような新しい技術をできるだけ早いタイミングでグループ内で展開するには、どういった進め方があるのかを検討しはじめました」(成田氏)

成田 敏博氏(日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO グループ情報責任者)
成田 敏博氏(日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO グループ情報責任者)

プロジェクトチームでは、まず生成AIの活用がはらむリスクを検討したうえで、セキュリティ面、コンプライアンス面と、大きく2点のリスクに整理し、対策を検討しました。

セキュリティ面の主なリスクは、入力内容の情報漏洩です。ChatGPTに入力した内容はOpenAI社の学習に利用されるといわれており、個人情報、取引先情報、社外秘の情報等を入力することに懸念があります。プロジェクトチームはこの懸念を最も効率的に払拭するため、日清食品グループ専用の環境を構築することを決めました。

コンプライアンス面では、生成AIの回答を鵜呑みにして、そこに含まれる不正確さや誤認、偏見やバイアス、著作権侵害に気づかず、2次・3次利用してしまうことがリスクとなります。そこで日清食品グループでは、生成AIの利用に関するガイドラインを作成し、説明会や社内報を通じて周知、またシステム上で注意喚起を行えるような仕組みを用意しました。

日清食品グループが検討した、ChatGPTの利用に際するリスク
日清食品グループが検討した、ChatGPTの利用に際するリスク

わずか3週間でリリース、全社員にプロンプトエンジニアリング研修を実施

環境構築を開始するのと並行して、関係部署との調整も進められました。法務部門、リスク&コンプライアンス部門、内部監査部門らとリスク対策について意見を交わし、マーケティング部門、デザイナーチームとは社内展開の方法について調整、その後、経営会議での報告を経て、4月25日、NISSIN AI-chatは公開されました。プロジェクトチーム結成から、わずか3週間後のことでした。

公開後は3日連続でユーザー説明会を行ったり、Web社内報に連載記事を掲載したりするなど、周知・啓蒙施策を展開しました。社内報の記事では、NISSIN AI-chatにはどんなことができるのか、得意なことは何なのか、うまく使うコツなど、全社に向けて丁寧な説明を行ったと成田氏は説明します。

また専用環境を構築・展開して終わりではなく、全社を巻き込んだ利用加速、システムの高度化を目指した施策も継続しています。当初、力を入れて取り組んだ施策だと成田氏が語るのが、プロンプトエンジニアリング研修です。プロンプトエンジニアリングとは、対話型の生成AIから適切な回答を得るための質問技術です。ユーザーが生成AIにプロンプト(質問文)を投げかけても、的外れな回答しか返ってこなければ利用が進まないため、どう質問をすれば必要な情報を引き出せるのかを学ぶことは非常に重要です。そこで日清食品グループでは、理解度・技術力のレベル別(初級・中級・上級)のプロンプトエンジニアリング研修を、全社員を対象に実施しました。

日清食品グループが実施した、レベル別プロンプトエンジニアリング研修
日清食品グループが実施した、レベル別プロンプトエンジニアリング研修

営業1人あたり250時間/年の作業時間削減を見込む

またプロジェクトチームは営業部門と連携して、生成AIの活用スキル向上、利用促進を図る施策を展開し、効果検証まで行いました。具体的には、全国に約250人いる営業担当者から約20人のメンバーを選抜して、営業部門のなかでどんな業務の効率化にNISSIN AI-chatが使えるのか、どういう質問文なら汎用的に使えるのかを、実際にNISSIN AI-chatを利用しながら営業担当者自らが考えるというものです。施策の目標は、適切な回答が得られるプロンプトテンプレートによって効率的にNISSIN AI-chatを利用して業務の質を上げることで、顧客満足度の向上を図ったり、ルーチンワークの工数を削減して、そのぶん顧客のために使う時間を増やしたりすることでした。

営業部門における利用促進施策の実施内容
営業部門における利用促進施策の実施内容

何度もプロンプトをブラッシュアップしながら1か月間取り組んだ結果、営業部門の約30の業務でNISSIN AI-chatが活用できるという結論が出るとともに、そのうち20の業務に関して、汎用的に使えるプロンプトテンプレートが作成されました。

この取組みによる効果もすでに上がっています。講演で例として紹介されたのが「売り場を魅力的に見せる企画のアイデア出し」業務です。従来は営業担当者が自ら企画を考えて資料を作成し、顧客(小売業者)に提案していました。この業務にNISSIN AI-chatを導入し、テンプレートをもとに質問することで企画のヒントを得たり、資料のまとめや顧客に提案する際のプレゼン台本の作成をサポートさせたりすることで、作業の効率化に成功したといいます。営業部門ではそのほかにもNISSIN AI-chatを活用できる業務を抽出してプロンプトテンプレートを作成したことで、削減できる作業時間は営業担当者1人あたり250時間/年を見込んでいると成田氏は説明しました。

現在は営業部門のほか、マーケティング部門でもプロンプトテンプレートの作成が進められており、さらに宣伝部、広報部、経営企画部、財務経理部、法務部、サステナビリティ推進部などからも、同様の取組みを希望する声があがっているといいます。

拡張するアーキテクチャと今後の展望

このように、実際に業務上で効果を生んでいるNISSIN AI-chatですが、仕組みはどのようになっているのでしょうか。以下の図は、NISSIN AI-chatのシステムアーキテクチャです。ユーザーはMicrosoft Power Appsというアプリケーションを介して生成AI(Azure OpenAI)に問いかけをしにいく構成です。さらに7月からは、社内ユーザーのニーズに応えるかたちで、Bing Search APIを組み合わせ、インターネット上の情報も取りにいける機能も実装されました。現在は、NISSIN AI-chatが回答を導くうえで、社内情報を参照できるようにする構成を検討しているといいます。生成AIが社内情報を学習していないと業務での利用が進みにくいためです。

「社内の共通共有文書やシステムのデータを見に行くことによって、自分たちの業務に直結した内容をNISSIN AI-chatが回答してくれることを目指しています」(成田氏)

NISSIN AI-chatのシステムアーキテクチャ
NISSIN AI-chatのシステムアーキテクチャ

今後検討している施策として、成田氏はMicrosoft Copilotの先行活用をあげました。Microsoft Copilotにより、生成AIとWordやExcel、PowerPointなどのビジネスアプリケーションが直結することで、生成AIにプロンプトのテキストをペーストしたり、逆に生成AIの回答テキストを別のアプリケーションにコピー&ペーストしたりする必要がなくなり、生産性向上が期待できるとの考えからです。

また、社内外の問い合わせ業務の効率化や、基幹業務システムおよび現在構築中の全社共通データベースとNISSIN AI-chatをAPI連携させ、システム処理やレポーティングの自動化を図っていくことも視野に入れているといいます。成田氏は「今後もユースケースを増やし続けるとともに、生成AIが企業活動に対してどのような変化をもたらすのかを深掘りしながら活用を進めていきたい」と展望を語り、講演を締めくくりました。

(文:渡邊 智則)

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